この百合小説がすごい!2021

 

 2020年を振り返り、 独断と偏見で選んだおすすめの百合小説を、ランキング形式でご紹介します。 対象作品は、ノベライズ、復刊、短編を除く20年中に発表された新作、または1巻が発行されたシリーズ作品、日本国内で翻訳出版された作品です。まだ2回目ですが、前回の記事をご覧いただいた方々やこれからご覧いただく方、2020年も素敵な作品に出合わせてくれた先生方にささやかな感謝を込めてお送りいたします。

 ※てっとり早くどんな作品がリストアップされているか確認されたい方は、末尾に目次があるので、そちらをご確認ください。

 

 

 

 

第40位 トリコロールをさがして/戸森しるこ
トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

 

  女性教諭に惹かれる女子中学生の一筋縄ではいかない複雑な感情を描き出した『理科準備室のヴィーナス』が印象的な戸森しるこ先生の小学生の女の子を主人公にした作品です。  

 4年生の真青まおは、幼馴染の真姫が大好き。けれど、その真姫が最近あまり遊んでくれなくなったことに不満を持っています。6年生の真姫とは交友関係も違ってくるし、真青は真姫の「個性的なものが好き」という価値観や、おしゃれに興味を持っていることも理解できずにいて、真姫が変わっていくことを寂しく感じます。

 そんな真青が、周囲の人間との関りを通して、ともに傷つかないための適切な距離感をつかみ、真姫との新しい関係を受け入れていくまでが描かれています。
 
 
 
第39位 ハジメテヒラク/こまつあやこ
ハジメテヒラク

ハジメテヒラク

 

【あらすじ】頭の中で実況することが趣味の女の子・綿野あみ。中学に入ったばかりのあみは、従妹の早月から貰ったお守り代りの双眼鏡を、生活指導の先生に取り上げられそうになり、生け花部の部長・城に助けられる。かわりに、新入部員が入らないと来年には廃部になってしまうという生け花部に勧誘されて、勢いのまま入部したあみ。しかし、あみを含めてもたった四人しかいない部員は、てんでバラバラでまとまりがない。そんな折、お世話になっていた花屋が閉店することになり、投票で決まる文化祭の賞に入賞することで、恩を返そうと意気込む城の熱意に押されて、あみは、作品を展示するだけでなく、観客の前で生ける生け花ショーを思いつき、その実況役に名乗りでる。

 

 あみには「ヒーロー」がいます。競馬の実況アナウンサーを目指す従妹の早月です。小学生の時、友達の恋を応援しようと思って失敗し、クラスで無視されていたあみに、早月は輪の外からクラスの実況をするという提案をし、それが孤立していた間のあみの心の支えになったのでした。以来、夢が叶ったら連絡するというメモを残していった早月との再会を待ち望んでいます。

 早月の“実況するってことは、その馬や人を知るってこと”という教えに導かれるようにして、部長にたてついたりして怖そうに思えたカオ先輩や、同じ一年の女子同士、仲良くしたいと思って話しかけても、なぜかそっけない九島、彼女たちの見えなかった一面に触れて、親密になっていく過程も読みどころのひとつ。

 ほんの半世紀前まで、女性が騎乗することさえ許されなかった競馬界。たまたま誘われた競馬観戦で、女性騎手を見かけたことから、アナウンサーを目指した早月。アナウンサーになることを両親に反対されて、あみの家に転がり込んできた早月に、あみの父親は、“実況ってふつう男性がやるもんだろ”と驚きます。名も知れぬ女性ジョッキーから早月へ、早月からあみへと、女性たちの連帯が、作品の背後にひっそりと息づいているのを感じます。

 

 

 

第38位 白百合さんかく語りき。/今田ひよこ
白百合さんかく語りき。 (電撃文庫)

白百合さんかく語りき。 (電撃文庫)

 

 

 内弁慶な永遠と社交的なリリは『カップル厨』の同志。ふたりで、目についたカップルを観察したり、お題を出しあって妄想したりの毎日を送っています。永遠とリリの繰り広げるカップリング妄想、リリが、持前の社交力と妄想で培った恋愛能力(?)を活かして、放課後に開いている恋愛相談室にまつわる騒動を描いたコメディです。

 リリは密かに永遠のことが好きなのですが、永遠といえばリリの気持ちにはまったく気づいてないくせに、リリをイジるのは大好き。そんな永遠に毎度振り回されてしまうリリ。ギャグ色強めで、ときとしてカオスでシュールな作品ですが、キュンとくるようなシーンもちょっぴりあります。

 

 

 

第37位 ミスエデュケーション/エミリー・M・ダンフォース
ミスエデュケーション

ミスエデュケーション

 

 

 同タイトルで映画化もされた、保守的なアメリカの田舎町に生まれたレズビアンの少女を主人公にした青春小説です。クラウドファウンディングを活用して、世界の本を翻訳出版するサウザンブックスの一冊として日本でも刊行されました。

  なにかと張り合っていた悪友の女の子とはじめてキスした12歳の夏。翌日、交通事故で両親を亡くしたことで罪の意識を感じ芽生えた気持ちに蓋をしてしまった初恋。競泳のライバルとのひと夏限りの情熱的な関係と、その後も続く友情。そして、ハイスクールで出会ったコーリーに恋したキャメロン。恋心を秘めつつも、コーリーの親友として振舞うキャメロンですが、ふたりの気持ちが通じたかのように思えた直後、キャメロンがレズビアンであると知った叔母に、同性愛者矯正施設に入れられてしまいます。

 後半部では、その施設での生活が描かれます。幸いにも、二人の素敵な仲間を得て、過酷な経験を乗り越えていく姿が描かれます。

 

 

 

第36位 少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房/江本マシメサ

 

 2015年のデビュー以来、「小説家になろう」連載した作品が多数書籍化されている江本マシメサ先生。近年では書下ろし作品も増え、ライト文芸の人気作家のひとりである先生の精霊たちに愛される人間の少女とダークエルフの女性を主人公にしたファンタジーです。
 12歳の少女・エルは、辺境の森で、唯一の隣人である老齢の魔法使いの元に身を寄せながら、出稼ぎに行ったまま帰ってこない父親を待ち続けていました。しかし、魔法使いの老人も帰らぬ人となり、エルは一緒に暮らしていた猫妖精のヨヨとともに、父親を捜すために王都を目指します。苦労して王都に辿り着いたものの、早々にトラブルに巻き込まれたエルは、ダークエルフの美女イングリットに助けられます。その縁で共同生活を送ることになったふたり。
 イングリッドは、魔力を付与した魔石を動力源にした製品の開発を生業としていて、非凡な発明家でもありましたが、開発した製品の権利を騙し取られたり、ダークエルフに向けられる人間たちの偏見のせいで不遇をかこっていました。老魔術師によって鍛えられ、良質の魔石をつくる技術を持ったエルは、イングリッドの研究の行き詰まりを打破するきっかけとなり、仕事上のパートナーとして欠かせない存在になります。
 普段の生活では、しっかり者のエルが、ずぼらなイングリッドをお世話する側になっていますが、父親を捜していくうちに次々と明らかになっていく自身の出生にまつわる過酷な真実に直面するエルにそっと寄り添い、ときには身を挺して危険から守ろうとするイングリッドとは、固い信頼と愛情で結ばれていきます。
 「小説家になろう」で連載された本編は完結済。現在、書籍版はイングリッドの努力が報われる2巻までが刊行。ふたりの魔術工房を持つことを目指して、苦難の道のりをふたりと精霊たちで支え合って歩んでいく続刊の刊行が待ち望まれます。
 
 
 
第35位 お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記/有沢佳映
お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

 
お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 下

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 下

 

 

 寡作ながら高い評価を得ている児童文学作家・有沢佳映ありさわかえ先生の7年ぶりの新刊は、中高一貫の共学校の女子寮を舞台にした作品です。「人が人を助ける」というモットーを掲げる女子寮では、寮生たちが手分けして学園のトラブルに対処するという伝統があり、そのための情報収集を担当する通称お庭番と呼ばれる役目がありました。お庭番に指名された一年生、お調子者のアスが、同室の美少女で頭もいいけど中身は小学生男子のような郁名ゆきな、ボーイッシュな見た目だけどおとなしくて心優しい恭緒たかおとともに、ときおり人間関係に頭を悩ませたりしつつ、事件に体当たりしていく様が描かれます。
 その三人を取り囲む個性豊かな寮生たちが描かれているところも本書の魅力。的確な采配でトラブルを解決に導いていく頼れる寮長と、息の合ったところを見せるクールビューティーな副寮長、いつでも明るく突拍子のない行動で呆れさせつつも、エンターテイナーぶりを発揮して皆を沸かせる三バカ先輩たち、「不機嫌姫」とも呼ばれる迫力のある美貌で寮生たちから畏れられ、辛辣ながらも情にも厚くみんなから愛されているピアノの特別生のイライザ先輩、空気を読まない発言で場の雰囲気を凍りつかせる失言クイーンのオフ子先輩(あだ名の由来まで面白い)、寮生たちから敬われているちょっとシャイな幽霊のレイコ先輩などなど、彼女たちと三人の過ごす寮生活は、本当に楽しそうです。
 アスたちがお庭番に任命される二学期からクリスマス会までが描かれ、幕を閉じますが、相当に濃い4か月間を体験した頃には、きっと、本を閉じるのが惜しくなっているはずです。
 
 
 
第34位 愛されなくても別に/武田綾乃
愛されなくても別に

愛されなくても別に

  • 作者:武田 綾乃
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 単行本
 
 『響け!ユーフォニアム』シリーズや『君と漕ぐ』シリーズでおなじみの武田綾乃先生による『小説現代』2020年8月号に一挙掲載された家族神話に切り込んだ長編作品です。
 浪費癖があり、家事もまったくやろうとしない母親の面倒を見るためにバイト漬けの日々を送る大学生の宮田。鬱屈した思いを抱えつつも、女手ひとつで育ててくれた母親を見捨てることができずにいた宮田ですが、次々と母親の嘘が発覚し、とっておいた奨学金にも手を出されたことを知り宮田は家を飛び出します。行く当てのない宮田は同じバイト先に勤める同級生の江永に誘われて、彼女の部屋に間借りすることになります。元はと言えば、江永の派手な外見に気後れして避けていた宮田ですが、江永の父親が殺人犯だという噂を耳にして声をかけ、「不幸な人に興味がある」と率直に言った宮田を、なぜか江永は気に入ったようで、それ以来、度々、言葉を交わす仲になっていたのでした。血縁関係に悩まされたことがあるという共通点以外接点もなく、それがなければおそらく近づくこともなかっただろうふたりですが、ともに過ごしていくうちに、宮田が自身を縛り付けていた家族の愛情と訣別し歩み出していく姿を描いています。辛酸を舐めさせられてきたふたりに訪れた小さな奇跡が希望を感じさせてくれる作品です。
 
 
 
第33位 婦好戦記 最強の女将軍と最弱の巫女軍師/佳穂一二三
婦好戦記―最強の女将軍と最弱の巫女軍師― 一 (ヒストリアノベルズ)

婦好戦記―最強の女将軍と最弱の巫女軍師― 一 (ヒストリアノベルズ)

  • 作者:佳穂一二三
  • 発売日: 2020/02/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  「小説家になろう」にて連載、2019年から刊行を開始した歴史小説専門の新文芸レーベル、ヒストリアノベルズの一冊として刊行された佳穂一二三かほひふみ先生のデビュー作。実在が確認されている中国最古の王朝・殷の時代を舞台に据えた歴史小説です。

 門外不出の禁忌である文字を覚えたサクは、罰として王妃・婦好の率いる女性だけで構成された軍に配属されます。婦好の在り方に魅せられたサクが才覚を認められ、数々の試練を経て婦好を支える軍師として成長していきます。
 サクは殺生を嫌い、動物さえ傷つけるのを厭う心根の持ち主ですが、婦好との出会いは、サクに婦好との仲をやっかんで虐めてくる同僚にも、同盟軍の軍師から命を懸けた勝負を挑まれても、一歩も退かない勇気をもたらします。それだけ、サクにとって婦好は大きな存在であり、婦好もまた異質な発想をするサクに特別に目をかけるようになっていきます。
 婦好の軍の先頭に立って男たちと互角に斬りあう力と非情に徹して戦に臨む覚悟、サクの知恵と失われていく命を惜しむ優しさが、女性たちをエンパワメントしていくふたりの覇道の行方を見届けたくなります。
 
 
 
第32位 地球さんはレベルアップしました!/生咲日月

 【あらすじ】ある日、世界中に響く「地球さんはレベルアップしました!」という声とともに、世界各地にダンジョンが出現。十五歳の少女、羊谷命子は生成されたダンジョンに巻き込まれてしまうが、人類ではじめてのダンジョンからの生還者となる。

 
 <小説家になろう>発の生咲日月いくざきかずき先生のデビュー作。地球が喋り、ダンジョンが出現する、突然、ファンタジー化した世界に社会が混乱するなか、4人の女の子たちが人類の先頭を切って、ダンジョン制覇に挑んでいく痛快なストーリー。
 4人の中心となる羊谷命子ひつじやめいこ))はゲームが好きな溌溂とした少女。本物のダンジョンの出現にも欣喜雀躍、いちはやくファンタジー化した世界に順応していきます。ちょっと目立ちたがり屋なところもあるけれど、地道に研究と鍛錬を重ねる姿は真剣。周囲の人間も感化していき、リーダーシップを発揮していきます。命子の一つ下の幼馴染の有鴨紫蓮ありかもしれんは、命子以上にファンタジー世界に耽溺し、中二病キャラを演じてるけど、素は人見知り。大好きな命子の後を付いていきます。さらに、生真面目で人目を惹く容貌ながら、口下手なために親友といえる存在のいなかった笹笠ささがさささらと、ヨーロッパの小国からやってきた忍者に憧れる陽気なながれルル、命子のふたりの同級生が加わります。仲睦まじい彼女たちが、なりたい自分に近づきつつ、和気藹々とダンジョンを攻略していきます。
 
 
 
第31位 キャンドル/村上正郁
キャンドル (フレーベル館 文学の森)

キャンドル (フレーベル館 文学の森)

 

  前回、取り上げさせていただいたデビュー作『あの子の秘密』に続く村上正郁むらかみまさふみ先生の第二作です。母親を亡くして以来、諦念を抱え無気力に過ごす少年と、その親友で、一見すると美少女なガキ大将の少年との友情を軸に置いた作品でもあり、実は王道の百合小説でもあります。どのようにそれらが繋がっていくのか、予断なく語りの魔術を堪能していただきたい作品です。大切な人を失ってから後悔しないために喪失の痛みと向き合っていく素敵な物語でした。

 

 

 

 

第30位 魔女の愛し仔/綾里けいし
魔女の愛し仔 (星海社FICTIONS)

魔女の愛し仔 (星海社FICTIONS)

 

  『B.A.D.(Beyond Another Darkness)』シリーズや『異世界拷問姫』シリーズなど、ダークなファンタシーを得意とするライトノベル作家綾里けいし先生の新作は、人間の娘を愛した魔女と、魔女を愛した人間の娘の物語です。

 古き魔女エンゲル・ヘクセンナハト(エル)は、本来の終わり方とは別の結末を迎えてしまった『幸福になれなかった物語』が放つ呪いを封じるため、それらを管理、保存する役目を負っています。エルの愛し仔であり、弟子であるサラは、『幸福になれなかった物語』が異なる道筋を辿ることになった原因を取り除き、新しい解釈を施すことで物語を幸せに導き、呪いを鎮めようと物語世界に飛び込んでいきます。『白雪姫』や『人魚姫』など有名なおとぎ話を題材に、物語の中で、いったい誰が、何のために、どうやって、物語の結末を書き換えてしまったのかをサラとエルが探っていく、ファンタシーとミステリを両立させた意欲作です。
 幕間に挟まれた断章では、エルとサラの物語が紡がれていきます。人々から奴隷のような扱いをされてきたあげく、生贄として差し出されたサラに、はじめて優しく一人の人間として接してくれたエル。それでいて、どこか一線を引いていたエルが、ともに過ごしていくうちに、サラに深い愛情を抱いていく過程が描かれます。しかし、次第に、愛し仔の真実、サラとエルの置かれた過酷な境遇が明らかになっていきます。それでも、人と魔女では幸せになれない――世界の定めた運命に抗おうとするサラの決意と覚悟に胸を揺さぶられます。
 
 
 
第29位 異世界に咲くは百合の花/蛙田アメコ
異世界に咲くは百合の花 (GL文庫)

異世界に咲くは百合の花 (GL文庫)

 

  前年は『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』を取り上げた蛙田アメコ先生。11月には一部、原作・脚本を担当した朗読百合劇も開催され、新たな取り組みもされていた蛙田先生の<小説家になろう>で連載されていた作品が、電子書籍百合専門レーベルGL文庫の一冊としてまとまりました。乙女ゲーム世界を舞台にメインヒロインと悪役令嬢の恋を描いたファンタジーです。

 
 推しの悪役令嬢フウカが登場するゲーム世界にメインヒロインに転生したミヤコは、晴れて婚約破棄をもぎ取り、シナリオ通りなら非業の死を遂げるはずのフウカの元に駆け付けます。フウカとふたりきりのスローライフを満喫しようとするミヤコに、フウカは、二週間以内に「幸せだ」と言わせるということを条件に、ミヤコの提案を受け入れます。
 そうして始まったふたりのささやかな生活のなかで、推しを救いたいという一心で行動していたミヤコが、フウカを改めて一人の女性として意識したり、本当は努力家で無私の人であるフウカを間近で感じて、フウカを救いたいという決意を深めていきます。
 気の抜けない貴族の世界で生きてきたフウカにとっては、ミヤコとの暮らしははじめての体験づくし。それまで結果だけを求められ、誰にも努力する姿を認められることのなかったフウカは、努力によって得た成果を活用し人の役に立つことの喜び、人々から感謝される温かみを知っていき、ミヤコにも心を開いていきます。しかし、それゆえにミヤコを自分の運命に巻き込みたくないと葛藤します。
 そんなふたりに訪れる危機。ふたりを見守る人たちにもそっと背を押されながら、試練に立ち向かっていく、ほんとは誰よりも頑張り屋の報われない悪役令嬢と、誰よりも悪役令嬢を愛するメインヒロインの激動の14日間を描いた作品です。
 
 
 
第28位 ババヤガの夜/王谷晶
ババヤガの夜

ババヤガの夜

  • 作者:王谷晶
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: 単行本
 

  文芸誌『文藝2020年秋号』(河出書房)の「覚醒するシスターフッド特集」の目玉として発表された作品です。王谷晶おうたにあきら先生といえば、多種多様な女性同士の関係を描いた短編集『完璧じゃない、あたしたち』が印象に残るところ。この作品でも一言では言い表しがたい女性同士の関係性が描かれています。

 
 唯一の趣味といえる暴力ー純粋な力のぶつけあいにしか関心を持たない新藤依子は、ヤクザとの戦いに敗れ連れていかれた先で、組長の一人娘の護衛をすることになります。新藤が護衛に就くことになった尚子は、父親や男たちの前では感情を表さない人形じみた美少女でしたが、新藤に対してだけは、最初から感情も露わに挑発的な態度を取ります。しかし、次第に、来るべき許嫁との結婚後の家庭での在り方、理想の母親像など、ひどく古風な価値観を大真面目に説いていた尚子が、父親の思う女らしさにがんじがらめにされた籠の鳥であることが分かってくると、あるべき女性像とはかけ離れた新藤に対する尚子の心境の複雑さがおぼろげに浮かび上がってきます。暴力の世界に身を浸してきた新藤にとっても尚子は理解の外であり、はじめは尚子の態度を軽く受け流していた新藤も、尚子の抱える苦しみに気づきはじめ、ある事件をきっかけに、ふたりは結びつきを強めていきます。
 なんの共通点もなく友人でも恋人でもないふたりが一蓮托生の間柄になり、押し付けられた女らしさと、それを強要するヤクザ――男社会に対して立ち向かっていく。その戦いは「あいつらに殺されてたまるか」という気概に満ちていて、胸のすく思いでした。
 
 
 
第27位 さいはての終末ガールズパッカー/藻野多摩夫
さいはての終末ガールズパッカー (電撃文庫)

さいはての終末ガールズパッカー (電撃文庫)

 

  2017年に第23回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作『オリンポスの郵便ポスト』でデビューされた藻野多摩夫ものたまお先生の最新作。遥か未来、太陽が衰退して寒冷化が進み、人類も滅亡寸前という世界を舞台に、ふたりの少女の旅路を描いた作品です。

 7歳のとき、母親を亡くした際に、レミが掘り起こした2000年前に作られた自動人形《オートマタ》の少女リーナ。左腕は既に動かず、記憶も無くして行き場所のないリーナを受け入れてくれたレミ。その後、祖父も亡くし、天涯孤独となったレミの成長を見守ってきたリーナ。誰にも頼ることのできない環境で、互いの生きる希望でもあったふたり。大きくなったらリーナを治すというレミの抱いた夢を果たすため、かつて耳にした東の果てにあるという《楽園》を目指します。短くなっていくリーナの稼働時間、《楽園》の真実、ふたりを引き裂こうとする過酷な現実に直面しながらも、諦めず残された日々を支え合って懸命に生きていこうとする姿が感動を呼ぶ作品です。
 
 
 
第26位 寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖/倉本由布

  80年代後半のコバルト文庫の最盛期から、同文庫で活躍されていた倉本由布先生。90年代以降は時代もので人気を博し、2016年には初めて一般向けの時代小説シリーズ『むすめ髪結い夢暦』を発表。武家の娘から女髪結いになった主人公・卯野が、出会った女性たちの恋や、時には事件に関わっていくのを描いた作品で、嫁と姑、母娘や姉妹、幼馴染、女性同士で思いやって生きていく姿も濃やかに描かれていました。本作は、武士の娘と町人の娘という身分を超えて、深く結びついたふたりの少女を主人公に据えた時代ミステリ連作集です。

 15歳の札差の娘・薫と、同い年の代々同心を務める内藤家の娘・芽衣。薫は駆け出しの同心である芽衣の兄・三四郎の岡っ引きで、芽衣は薫を補佐する下っ引き。薫はとびきりの美人ですが、微笑むことすら滅多にない不愛想な人柄で、芽衣は人好きのする気だてのよい娘。無残な死体を見ても顔色一つ変えない薫は、謎解きは得意ですが、聞き込みとなると、人当たりよく気遣いのできる芽衣の方が、警戒されずに話を聞き出せる場面もあり、犯罪捜査の相方としても、相性の良さを発揮しています。
 芽衣に何かあろうものなら、事件が起きていようと、風邪で寝込んでいようと即座に駆け付ける薫。謎解きと芽衣のこと以外にはまるで無関心で、身の回りのことには無頓着な薫を、いつでも気にかけている芽衣。言葉少ない薫も、芽衣を大切に思う気持ちは包み隠さず伝え、芽衣の方は嬉しそうにしながらも自然に受け止めていて、深い信頼で結びついていることが伝わってきます。その仲睦まじさは、芽衣の兄・三四郎をやきもきさせ、薫の異母妹が嫉妬するほど。
 この巻の最終話では、5年前に遡り、薫と芽衣の馴れ初め、そして深く結びつくようになるきっかけとなった出来事が描かれています。お金には不自由しないはずの薫が、なぜ岡っ引きとしてお駄賃をもらうことに固執するのか、そして、薫の抱く夢も明かされます。その夢をふたりで叶えられる日がやって来るのか、続きが楽しみです。
 
 
 
第25位 夜の向こうの蛹たち/近藤史恵
夜の向こうの蛹たち

夜の向こうの蛹たち

  • 作者:近藤史恵
  • 発売日: 2020/06/11
  • メディア: 単行本
 

  近藤史恵先生の百合小説といえば、全寮制の高校に入った女生徒が憧れていた先輩の死の真相を探るミステリー『あなたに贈るX(キス)』が印象に残るところ。やるせない真相がせつない作品でした。『ダークルーム』所収の短編「北緯六十度の恋」も女性どうしの恋愛とミステリではおなじみの要素を掛け合わせた秀作でした。また、『インフルエンス』では性暴力に抗うために犯した罪で繋がる三人の女性の関係を通して描かれる女性たちの連帯が印象的でした。『茨姫はたたかう』に始まる整体師探偵のシリーズでは、現代女性の生きづらさが浮き彫りにされていましたが、今回の作品では、容姿で人を差別するルッキズムがテーマの一つであり、作中の三人の女性の関係にも影を落としています。

 織部妙はレズビアンの小説家で、優れた容姿ゆえに、そのことに無遠慮に触れられるのを嫌っています。織部は、ある日、“美人作家”と評判の新人、橋本さなぎの作品を読み、その才能に圧倒されます。しかし、文学賞のパーティで対面した橋本の人当たりのいい親切な対応に、かえって幻滅してしまいます。かわりに、織部の目を奪ったのは、橋本の秘書・初芝祐でした。彼女に一目で恋というより欲望と名付けるのがふさわしいほどの激しい感情を抱きます。けれど、恋愛経験も重ね、決して奥手とも思えない織部は、初芝に対する気持ちをもてあまし、積極的にアプローチすることもできずにいます。それでも橋本と初芝が決して良好な関係ではないことを知った織部初芝に目をかけ関わっていくうちに、やがて、橋本と初芝の抱えた秘密に気づきます。それによって橋本も交えた三人の関係は複雑にもつれ合っていきます。ルッキズムのもたらす苦しみと、それからの解放、そして、ままならない恋の痛みを描いた苦味の効いた恋愛小説でした。
 
 
 
第24位 ポラリスが降り注ぐ夜/李琴峰
ポラリスが降り注ぐ夜

ポラリスが降り注ぐ夜

 

  デビュー以来、一貫して言語やレズビアンをテーマにして書かれている李琴峰りことみ先生の三冊目の著作である本書は、新宿二丁目のバー「ポラリス」ですれ違う、レズビアンアセクシャルトランスセクシャルなど様々なセクシュアリティの女性たち、それぞれの人生の一瞬を切り取った連作集です。今に生きるセクシャル・マイノリティの女性たちに寄り添って描かれた彼女たちの現実からは、セクシャル・マイノリティであるがゆえの苦しみと孤独がひしひしと伝わってきます。

 年内には、日本で知り合い恋人同士になった台湾出身の女性と、新疆しんきょう出身のウイグル族の女性の姿を描いた『星月夜』も発表されており、言語の壁や政治、セクシャル・マイノリティを取り巻く社会の状況が、惹かれあう者どうし寄り添い共に生きる、ただそれだけのことをどれだけ難しくしているかを、静かに訴えかけてくるかのような作品です。
 
 
 
第23位 百合ACT ~王子様なお姫様、お姫様な王子様~

 【あらすじ】幼い頃はおとなしい子だった渚にとって、幼馴染の風花は、意地悪な男子からも守ってくれる頼もしい女の子だった。しかし、風花は転校してしまい離れ離れになってしまう。時は過ぎ、風花を守れるような人間になろうと努力した結果、渚は通っている女子校では、王子様ともてはやされるまでになっていた。そこへ、転入生として現れた風花は、昔と見違えるように、おしとやかな女の子になっていた。互いに、昔のイメージとは違う相手の姿に戸惑いながらも、恋人として付きあいだしたふたりだけれど……

 
 官能小説専門レーベルの二次元ドリーム文庫で、あらおし悠先生に次ぐ数の百合作品を手がけられている上田ながの先生の二年ぶりの百合作品です。
 高校で再会した幼馴染の渚と風花ふうか。学校ではお似合いの王子様とお姫様として祭り上げられているけれど、元々は真逆の性格をしていたふたり。本当に昔とは違うのかお互い本音を引き出そうとするけれど、ふたりとも本音を言えば相手のためにならないと思い込んでいて言うに言えない。とっくに両想いでお付き合いだってしてるのに、もっと深く繋がりたいという気持ちが生み出すもどかしさが絶妙のスパイスになっている官能百合でした。
 
 
 
第22位 こわれたせかいの むこうがわ/陸道烈夏

 第26回電撃小説大賞《銀賞》を受賞した陸道烈夏りくどうれっか先生のデビュー作。厳然たる階級間の差別が存在する独裁国家を舞台に、少女たちのサバイバルを描いた作品です。

 天涯孤独の少女フウは、禁制のラジオと小鳥のアサとともに、最下層民にとって過酷な世界を生き延びてきました。フウは、あるときカザクラという少女に出会います。フウのことをなぜか「おにーちゃん」と呼び、突拍子もない言動をするカザクラに警戒心を抱きつつも、家もなく行く当てもないというカザクラを放っておけず、一緒に暮らし始めたふたり。ところが、カザクラがある秘密を抱え、警察に追われる身であることを知り、この国にふたりが共にいられる場所はないと思い知らされるフウ。しかも、政府から国民に教えられてきた常識では、この地上に残った国家はただひとつとされ、周りを囲む砂漠には人を喰らう生物が出現し、生存に適さない環境であることは、フウも身をもって体験してきたこと。それでも、ラジオがもたらしてくれた知恵と、そこから生まれた微かな希望を胸に、政府のひた隠す真実に迫りつつ、追っ手を躱しながら、決死の脱出行に挑みます。フウが母親を亡くしてから抱えていた心の隙間に、いつの間に居座っていたカザクラ。軽口を叩きあいながら、絆を深めていくふたりの心情も繊細に描かれた、痛快無比の脱出劇です。
 第2巻では、奴隷商人の少女に目をつけられ、またしても陥った絶体絶命の窮地を潜り抜けていくフウの知略に魅せられ、互いに命を預け合うフウ達の結びつきの強さが感動的です。
 
 
 
第21位 ひきこまり吸血鬼の悶々/小林湖底
ひきこまり吸血姫の悶々 (GA文庫)

ひきこまり吸血姫の悶々 (GA文庫)

  • 作者:小林 湖底
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 文庫
 

 第11回GA文庫大賞「優秀賞」を受賞した小林湖底先生のデビュー作。

 ある条件下であれば殺されても生き返ることができるため、各国間の戦争が大衆の娯楽と化している世界。代々、帝国の将軍を輩出してきた名門貴族の家系に生まれたテラコマリ。しかし、吸血鬼なのに血が飲めないため魔法も使えず、エリート街道から外れ、ひきこもって暮らしていたら、突然、将軍に抜擢されてしまいます。戦争に明け暮れる荒くれ者たちを率いることになり、殺伐とした日常に放り込まれてしまったコマリ。血の気の多い部下には首を狙われるし、腹心のはずの専属メイド、ヴィルはコマリ好きを拗らせたおかしな言動を繰り返し、ふだんのコマリのことを知っているくせに、あろうことか周囲を煽るような発言ばかり。弱いとバレたら、いつ下剋上されるか分からないため、虚勢を張って大言壮語しつつも、内心、頭を抱えるコマリが、ハッタリと運だけで乗り切っていく抱腹絶倒のストーリー。
 やりたくもない将軍職をやらされているけれど、コマリ自身、小説家になりたいという夢を持っているだけあって、(平和な)夢を持っている女の子には甘く、
そんな女の子たちの願いを踏みにじろうとする輩には、とうてい歯が立たないと思っていても立ち向かっていく勇気を持った、本当は凄い女の子が出会った女の子たちを助けていく百合ファンタジーです。
 
 
 
第20位 QK部/黄黒真直
QK部 トランプゲーム部の結成と挑戦

QK部 トランプゲーム部の結成と挑戦

  • 作者:黄黒 真直
  • 発売日: 2020/03/09
  • メディア: 単行本
 
 投稿サイト「カクヨム」発の黄黒真直きぐろまさなお先生のデビュー作品。
 高校に入学した古井丸こいまるみぞれと倉藤津々実くらふじつつみは、中学以来の親友。いっしょに家庭科部に入る約束をしていたふたりですが、「素数大富豪」「QK(1213)部」と書かれた謎のポスターを発見。興味を惹かれたみぞれは、指定されていた教室を訪れます。そこで迎えてくれたのは、一年先輩の部長・宝崎伊緒菜ほうざきいおな。手札から素数だけを場に出すことができる素数大富豪に魅せられたみぞれは、QK部への入部を決意。津々実は、いつも津々実の後を付いてくるような子だったみぞれの闘志を見せられて、知らなかった一面にショックを受けながらも、快く送り出してくれます。
 しかし、入部早々、部員が伊緒菜しかいないQK部には廃止の危機が訪れます。偶然、みぞれは、同じ一年生の剣持慧が数学に強いことを知って、勧誘しますが、女の子が数学をできてもいいことはないと経験から思い込んでいた慧は、数学に強いことを隠していて、慧との交渉は難航します。しかし、みぞれたちの熱意に思うところがあった慧の入部も決まり、こうしてQK部の全国大会へ向けた活動が始まります。
 その後のライバルたちの登場、対戦を経て、伊緒菜が“おねえちゃん”と呼ぶライバルとの試合の回想が描かれます。頭脳バトルの面白さと、女の子たちが見せる友情、対抗心を燃やす姿が熱い作品です。
 「カクヨム」の連載はまだ続いており、続刊が待たれます。
 
 
 
第19位 百合保健室 失恋少女の癒やし方/あらおし悠
 
 官能百合小説をコンスタントに書き続け、12月上旬発行の『コミックヴァルキリーWeb版vol.91』から、初のコミカライズとなる『百合ラブスレイブ わたしだけの委員長』の連載も始まったあらおし悠先生。
 失恋して泣いていた見知らぬ女の子を、一度きりのつもりで体で慰めてあげた養護教諭白城樹里しらきじゅり。ところが、相手は新しい赴任先である女子校の生徒、守本文乃もりもとふみのでした。再会した文乃は、失恋の痛みが癒えるまでといって関係の継続を求め、樹里は立場を気にしつつも渋々、要求を飲みます。
 かたや年上の社会人でいくつかの恋も経てきた樹里と、かたや内気で誰ともお付き合いしたこともない学生の文乃という組み合わせ。豊富な経験でベッドの上では、樹里がリードしつつも、ふだんは内気な文乃が時折みせる大胆なおねだりに翻弄される、ふたりの関係はちょっぴりコミカルで甘い雰囲気を漂わせています。
 あくまで失恋の痛みを慰めるだけの割り切った関係でいようとする樹里が、だんだん情熱を内に秘めた文乃に心動かされていき、せつなさも増していきます。再会した過去の恋人に背を押され、樹里が心の奥底にしまい込んでしまった自分の本当の願いに気づくシーンには心を揺さぶられました。
 『百合風の香る島』(2017年)以来の先生と生徒の恋を描いた作品ですが、それともまた違う関係性を描き出す、あらおし先生の引き出しの多さに脱帽する作品でした。ちなみに、年末に電子書籍のみで発行された『白き女神の邪教団 魔胎されし断罪シスター』は、これまでの作品と打って変わったハードでダークな内容となっていて、新境地に挑んでいます。
 
 
 
第18位 蒼百合館の夜明け/人間無骨
蒼百合館の夜明け (二次元ドリーム文庫)

蒼百合館の夜明け (二次元ドリーム文庫)

  • 作者:人間無骨
  • 発売日: 2020/02/28
  • メディア: 文庫
 

  個人出版で独自のこだわりを貫く官能百合を複数公開されてきた人間無骨にんげんむこつ先生の商業デビュー作です。

 進学塾に通う受験生の幸浦詩月は、母親からの抑圧と干渉に耐え切れず、塾をサボって、幽霊が出るという廃洋館を訪れます。そこで、年上の女性・光紗みさと出会い、詩月は悩みを受け止めてくれた光紗に惹かれます。まもなく誘われるがままに体を重ねて行きつつも、詩月は光紗に対する自身の想いを慎重に確かめていきます。しかし、想いが通じ合ったと思われた矢先に、光紗の様子に不審を抱いた詩月は、光紗の重大な秘密に触れてしまいます。結ばれようのない運命を前に、苦悩するふたりの激しく燃え上がる恋を描いた、究極の年の差百合と呼びたくなる作品です。

 年末にはさっそく商業作品の第二弾として『緋百合の絆』を刊行、官能描写の背徳性を増しつつも、人間と吸血鬼の主従の間に生まれていく絆をしっかりと描いた甲乙つけがたい作品でした。これからのご活躍に期待がかかります。
 
 
 
第17位 〆切前には百合が捗る/平坂読
〆切前には百合が捗る (GA文庫)

〆切前には百合が捗る (GA文庫)

  • 作者:平坂読
  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: 文庫
 

  アニメ化もされた『僕は友達が少ない』『妹さえいればいい。』などの著作がある人気ライトノベル作家平坂読ひらさかよみ先生。デビュー作の『ホーンテッド!』を始め『ソラにウサギがのぼるころ』『ラノベ部』と活動初期には百合要素を取り込んだ作品も多く、TRPGのリプレイ『グランクレスト・リプレイ ライブ・ファクトリー ニートな君主の竜退治』では、参加作家の中で一番熱心に百合プレイを主導していた先生が、レズビアンの少女を主人公にして、本格的に百合に取り組んだ作品です。

 
 高校生の白川結愛しらかわゆあは、レズビアンであることをカミングアウトしますが、無理解な周囲の人間たちに憤慨し、衝動的に家出します。結愛は、唯一、信頼できる従兄妹の編集者・白川京しらかわみやこを頼った結果、〆切破りの常習犯であるライトノベル作家海老かいろうヒカリこと海老原優佳理びわらゆかりの世話役兼監視役を任されることに。
 優佳理に一目惚れしてしまった結愛ですが、相手は一応は雇用主で行き場のない優佳理を受け入れてくれた恩人を困らせるわけにもいかず、ときおり、好きな人と一つ屋根の下というシチュエーションに煩悶しつつも、気持ちを隠して、健気に優佳理をお世話します。優佳理は、純朴で信じやすい結愛の反応が楽しくて、ついからかってみたり、〆切前になると、結愛を道連れに釣りやDIYなどに勤しんだり、そんなふたりの生活がメインに描かれています。
 しかし、一見すると人当たりのよい優佳理ですが、本来は人間関係に淡白で、作家としてもちょっと筆が立つだけの代替可能な存在であることを良しとする、そんな醒めた心をもつ作家に、結愛と過ごす日常がなにをもたらすのかが本書の見せ場となっています。ひとまず、この巻でふたりの関係性は、落ち着くとこに落ち着いたようですが、優佳理の性格からすると、まだもう一波乱ありそうな気もして、続きが楽しみです。
 
 
 
第16位 眠り姫と百合の騎士 ~お姫様はマゾ責めがお好き!?~/遠野渚
 十年来、官能小説などを発表されている遠野渚先生ですが、実はデビュー前には、百合小説しか書いたことがなかったという先生による初の商業百合小説。
 姫のティリアに幼い頃から仕えてきた騎士のクリス。成長したふたりは婚約者に嫁ぐときのための練習と称して関係を結ぶようになりますが、お互い立場のある身、気持ちを口に出せずにいる両片思いがせつなくもあり、ちょっぴりMなお姫様の要求に、困惑する真面目な騎士様という構図がちょっとコミカルな官能百合。いけないと思いつつも歯止めが利かなりそうなところを必死に理性で抑えようとしたり、逆に思わぬ才能を発揮したりと、ティリアに翻弄されつつ攻めるクリス、どっちが主で従なのか分からなくなりそうな関係性が楽しいです。
 しかし、ティリアは、世界を魔物の進攻から防ぐため、守護する婚約者と共に、命が尽きるまで眠りにつくという役目を負う身。来るべき時の到来、眠り姫を巡る陰謀に巻き込まれ、ふたりを取り巻く状況はきな臭さを増していき、命がけの恋へと発展していきます。ハラハラさせられながらも、想いを交わしたふたりの辿り着く結末には、きっと誰もが万感の思いを抱かされると思います。
 
 
 
第15位 好きで鈍器は持ちません!~鍛冶と建築を極めた少女は、デカいハンマーで成り上がる~/山田どんき

 【あらすじ】まだ赤ん坊だった頃に、生まれた村を魔物に焼き払われたハンナは、剣技を極め【至剣の姫】とも呼ばれる高名な冒険者であるエルフのレイニーに育てられる。いまは前線で魔物と戦うレイニーとの再会を願い、冒険者の道を志したハンナだが、あらゆる武具や魔法に対する適性がゼロの彼女は、とうとう養成学校を退学させられる。しかし、行き倒れたところを拾ってくれた大工の棟梁の下、ハンマーを手にした時から運命は一変する。ハンマーで叩けばどんなものでも加工できる能力を得たハンナの逆転劇。

 
 山田どんき先生の<小説家になろう>発のデビュー作。ハンマーで叩けばどんなものでも加工できる能力を得た少女・ハンナが、その手から繰り出す奇想天外な技で、逆境を跳ね返し、弱きを助け強きをくじく痛快なファンタシー作品です。
 ハンナは、高名な冒険者である養母に愛情を注がれて育ち、“『弱い人、虐げられている人を助けるのが冒険者』”だと教えられます。行き場をなくしたときには、大工の棟梁たちに迎え入れられ、人の温かみを知りました。一方、棟梁たちの社会的地位は低く、冒険者養成学校ではどれだけ努力しようと結果が出せずに、周囲からは露骨に見下されてきました。
 優しい心を持つ女の子に育ちつつも、踏みつけられる痛みを知るハンナだからこそ、報われない女の子たちのことが放っておけません。薬師としての腕前は確かなものの、口下手なために商売不振に陥っていたミラや、訳ありな少女・ガレの窮地を救っていきます。
 ハンナと仲良くなる彼女たちに加え、ハンナを毛嫌いする冒険者養成学校理事長の娘で学園の首席セシルと、その友人で学校時代にはハンナをさんざん馬鹿にしてくれたエルフの少女・ローゼリアも登場。ローゼリアは、偶然、ハンナのおかげで九死に一生を得て以来、手のひら返しにハンナに擦り寄り、邪険にされてもつきまとうようになりますが、どうにも一癖ありそうな子なので、ハンナとどういう関係になっていくのか興味をひかれます。そのほか、どうあってもハンナの実力を認められないセシルがハンナを認める日がやってくるのかなど、これからの展開にも期待できる作品でした。
 
 
 
第14位 打撃系鬼っ娘が征く配信道!/箱入蛇猫

 「小説家になろう」発の箱入蛇猫はこいりへびねこ先生のデビュー作。

 主役の菜々香は、小柄ながら常人を遥かに凌駕する身体能力の持ち主ですが、あまりのオーバースペックに現実の世界では発揮する場面がありませんでした。しかし、幼馴染の親友・凛音に誘われてはじめたヴァーチャルゲームの世界では、秘めていた力を開放することができ、その特異な戦闘スタイルが注目を集めるプレーヤーになっていきます。ゲーム内の世界観も練られているので、そのストーリーとともに菜々香の迫力のある戦闘シーンが楽しめます。
 菜々香が大好きな凛音は、所有する高層マンションの一室をポンと与えたり目に入れても痛くない可愛がりようを見せますが、凛音が菜々香をプロゲーマーの道に誘ったのも、窮屈そうに暮らす菜々香に思う存分力を揮わせてあげたいと思っていたからで、たびたび見せる菜々香を思いやる姿に深い愛情が感じられます。あまり人と関わり合うことのなかった菜々香も、凛音には特別に気を許している様子がうかがえます。
 菜々香と凛音の日常のやりとりや、凛音の従妹でふたりを慕うトーカとの交流するシーンが挟まれたり、NPC同士の吸血鬼百合が展開されたり、菜々香とプレイヤーを殺すことに無上の喜びを見出すプレイヤー≪殺人姫≫ことロウとの死闘が描かれたり、そのロウと鍛冶職の女性との関係だったり、ほのぼのから殺伐としたものまで、様々な関係性が埋め込まれています。
 今年の1月に発行された3巻では、それまで、断片的に語られていた菜々香の生い立ちに関する謎がついに明らかになります。菜々香が内に秘めていた凛音に対する想いの強さに、ただただ圧倒されます。 
 
 
 
第13位 神城リーリャは白百合の香りに恋い焦がれる/ちょきんぎょ
神城リーリャは白百合の香りに恋焦がれる (DIVERSE NOVEL)

神城リーリャは白百合の香りに恋焦がれる (DIVERSE NOVEL)

 

 

 2019年に完結し、全8巻を数えたデビュー作『転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい』を書き継ぐ傍ら、美少女文庫で官能小説を発表されてきた、ちょきんぎょまる。先生。初の書下ろし百合小説が、官能ライト文芸レーベルの一冊として刊行されました。百合小説を刊行するのが“長年の夢だった”というだけあって、“文字数オーバーして削るほど”書いたという気合の入りよう。「匂い」をテーマに官能描写にもこだわりながら、ふたりの女の子の恋模様もじっくりと描かれた欲張りな作品に仕上がっています。
 名門女子校に通う生粋のお嬢様である神城かみしろリーリャは、特待生の百合園明日葉ゆりぞのあすはが家族の事業の失敗によって退学の危機にあると知り、窮地を救います。恩返しに「なんでもする」と言われたリーリャは、秘めていた想いを抑えられず、ふたりは急速に近づいていきます。
 リーリャは、欲望に忠実な振る舞いで明日葉を困惑させる反面、それまで、家柄に恥じない人物であろうと常に自分を律して、周囲の期待に応え、博愛を旨としてきただけに、はじめて一人の人間への執着を覚えたことで、次第に、自身の欲望を純真な明日葉にぶつけてしまう罪悪感や、膨れ上がる独占欲を止めらない自分に対する嫌悪感に苛まれていきます。明日葉は明日葉で、リーリャの自分だけに見せる姿に惹かれ、すべてを受け止めようとする度量もありますが、次第にリーリャを自分が独占してしまうことに躊躇いを覚えていきます。
 そんなふたりの葛藤が生み出すすれ違いに、もどかしくじれったい気持ちにさせられつつ、リーリャが迷走すれば、明日葉が支え、明日葉が立ち止まれば、リーリャが導く。互いに手を差し伸べあって紡がれていく、初々しいふたりの恋模様に魅了されました。
 
 
第12位 女子高生同士がまた恋に落ちるかもしれない話。/杜奏みなや

  2017年のデビュー以来、メディアワークス文庫で活躍されている杜奏もりかなみなや先生が、電撃文庫から満を持して発表された百合シリーズ作品です。

 至って普通の女の子を自認する桐谷陽南きりたにひなみと、その友人で世話好きな永井愛梨咲ながいえりさ、愛梨咲とは幼稚園の頃からの幼馴染である仁熊飛和にくまとわは、星が好きな陽南が立ち上げた星楽部の部員。陽南と飛和は、自分たちの寮の修繕が終わるまで、愛梨咲の入っている寮にお世話になることに。陽南が相部屋になった御子柴佑月みこしばゆづきは、人見知りなのかなんだか挙動不審な女の子で、共同生活は前途多難と思いきや、愛梨咲は飛和のだらしなさに文句を言いながらも世話を焼き、飛和はからかいがいのある佑月をいじり倒し、佑月は大好きな星のことになると夢中になって周囲を置いてけぼりにしたり、そんな三人に囲まれて陽南に、にぎやかな日常が訪れます。
 ところが、佑月が陽南のかつて一回だけ一緒に星空を眺めた初恋の相手だと判明。それからの陽南にもう一回好きになってもらおうとする佑月の迷走ぶりが、大変かわいらしいです。陽南を大好きな気持ちが全開な佑月に対して、陽南は、ゆっくりと時間をかけて、幼い頃、佑月に抱いた気持ちを取り戻していき、ふたりの間にある特別な絆を確かめあうまでの過程がじっくりと描れています。
 こうして特別な関係になったふたりですが、2巻では、陽南は佑月の「好き」と自分の「好き」の違いに思い悩むなか、文化祭の開催が迫ります。引っこみ思案でクラスになかなか溶け込めなかった佑月が、文化祭の準備をきっかけに次第にクラスメイトたちと打ち解けていくのを目の当たりにして、陽南はそれまで覚えたことのなかった感情が芽生えてきて、佑月に向ける自分の感情がなんなのか惑います。佑月は佑月で、陽南に対する想いがあらぬ方向に暴走してうまく伝えられなかったり、初めての恋に手探りで向き合っていく不器用なふたりの物語に、もどかしくも甘酸っぱい気持ちにさせられます。
 また、二巻では、飛和の愛梨咲に対する屈折した心情の一端も明らかになり、それまでのエピソードも違った意味合いを帯びてきて、より味わい深く感じられます。ぜひとも、このふたりの物語も読んでみたいものです。
 
 
 
第11位 百合に挟まれてる女って、罪ですか?/みかみてれん
百合に挟まれてる女って、罪ですか? (電撃文庫)
 

【あらすじ】長年、勝負を繰り広げてきた神枝組と久利山組。今度こそ白黒つけようと、女組長の二人が選んだのは、互いの娘にターゲットを誘惑させ、先に相手を篭絡させた方が勝ちというハニートラップ勝負。いざというときの異性を篭絡する手管を教え込まれてきた二人の娘、神枝楓かみえだかえで久利山火凛くりやまかりんは勝負に乗り出す。ターゲットはメイド喫茶で働く一般女性、朝川茉優あさかわまゆ。ターゲットが女性であることに困惑しつつも茉優に接近する楓と火凛だが、不運続きで誰とも付きあったことのない茉優は、彼女たちをさらに困惑させるのだった。

 
 優しく包み込んでくれる楓と、飴と鞭を巧みに使い分け、小悪魔な魅力を放つ楓。タイプの違う美少女の猛攻に晒されてしまい、どちらもすぐ好きになっちゃって、どっちかなんて選べない茉優。楓と火凛の高すぎる火力が均衡してしまい、勝負にならないハニートラップ勝負には思わず笑ってしまいます。楓と火凛も、無類のお人よしで危なっかしい茉優のことがだんだん本気で放っておけなくなってしまいます。
 幼少期にまで遡る楓と火凛の間にある複雑に入り組んだ心境、母親同士の関係や、母娘間の愛情やすれ違い、どこを切っても女性同士の関係にあふれています。ラストのタイトルの伏線回収もお見事で、大満足の一冊です。
 
 
 
第10位 誰かの翼になりたい僕らの/綾加奈
誰かの翼になりたい僕らの (百合小説)

誰かの翼になりたい僕らの (百合小説)

 

 【あらすじ】他人の気持ちがわかりすぎるせいで、いつも周囲に慮ってきた藍田聡莉あいださとりは、人の頼みを断ることができない。高校生になった藍田は、案の定、いち早く声をかけてきたバスケ部の部長に流されるまま、特に興味もなかったバスケ部に入部する。ところが、そのせいで、いままで藍田の「親切」を唯一拒絶してきた中学時代の同級生、最原京子さいはらきょうこと顔を合わせることになってしまう。そのうえ、部長は、ぎりぎり試合できる最低限の人数しか揃っていないバスケ部で、全国制覇を目指すというのだが。

 
 2020年も、長編6作に短編集と、精力的に作品を発表されてきた綾加奈先生。202019年11月1日から2020年1月9日にかけてPixivで開催された、第2回百合文芸小説コンテストの各賞受賞作を集めたアンソロジーにも名を連ねています。
 バスケのこともよく知らず、自他ともに認める運動音痴で、小柄で体力もない聡莉が、一癖ある部員たちをまとめ、次第にバスケ部の柱となって活躍していく下剋上ストーリー。頭脳プレイで魅せる迫力ある試合シーン、強力な(そして綾加奈先生のファンなら嬉しい)ライバルも登場する、手に汗握る爽快なスポーツ小説です。
 人に合わせるばかりで、自分の主張を持たない空っぽの人間だと自己認識していた聡莉が、自分でも持てあましていた性格を長所に換えて、だんだんと強かに、周囲の人間を手のひらで転がすようにまでなっていくのが痛快です。
 聡莉にも考えが読めず、なにかときつく当たってきた京子が、聡莉に対して意外な気持ちを抱いていたことを知り、コートでの彼女を見ているうちに形になっていく聡莉の想い。そして、部員たちそれぞれの、たとえぶつかりあってでも持てる力を振り絞って誰かの翼になりたいという想いが、胸を熱くさせてくれます。
 
 
 
第9位 パラ・スター<Side百花><Side宝良>/阿部暁子
パラ・スター 〈Side 百花〉 (集英社文庫)

パラ・スター 〈Side 百花〉 (集英社文庫)

  • 作者:阿部 暁子
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
 
パラ・スター 〈Side 宝良〉 (集英社文庫)

パラ・スター 〈Side 宝良〉 (集英社文庫)

  • 作者:阿部 暁子
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫
 
【あらすじ】
<Side百花>親友の車いすテニス選手、宝良のために最高の競技用車いすをつくるという夢を胸に、車いすメーカーで働く百花ももか。目覚ましい活躍を見せ、着実に国内のトッププレーヤーとして登りつめていく宝良たからに対し、まだまだ車いす作りの経験を積まなければいけない段階にいる百花は、焦りを抱えていた。はじめての顧客である小学生との交流を通して、目標であり教育係である小田嶋の厳しい指導の下、車いす作りへの姿勢を見つめなおしていく。
<Side宝良>
瞬く間に車いすテニス界の国内トップ3に食い込んだ宝良は突然の不調に沈む。そのうえ、ずっと指導してくれた恩師のコーチは病と戦うために離脱し、新任コーチとの関係に不安を抱いていた。しかし、親友・百花をはじめとする信頼と期待を寄せてくれる人々との交流、コートの中で火花を散らすライバルたちの存在を糧に、宝良はあがき続ける。
 
 2008年にコバルト文庫からデビュー、その後オレンジ文庫での執筆を経て、2018年には、集英社文庫から初の一般向け作品を刊行された阿部暁子あべあきこ先生。本書は引き続き集英社文庫から発行された一般向け作品の第二弾。毎年、年末に発表される〈本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン〉では、1位に選ばれています。
 
 最初に仲良くなろうとしたときも、宝良が陸上テニスの道を諦めなければならなかったときも、何度も宝良に拒まれて、それでも一途に思い続け、いまや宝良の唯一の親友となった百花。<Side百花>では、ふたりの馴れ初めや今の関係に至るまでの経緯と、百花が使用者に寄り添った車いすづくり、宝良のための車いすづくりを目指しながらも、理想と現実の狭間でもがく姿が描かれます。
 宝良は、他人にも厳しいけれど、なによりも自分に厳しい女性。心を許す百花の前でも決して弱音を吐きません。一方、百花の献身に面と向かって感謝の言葉を口にすることはありませんが、それも車いすテニスの頂点に立つという宝良の望みが、百花の願いでもあることを理解しているからこそ。百花が助けを呼ぶならばどこにいても駆けつけようという誓いも内に秘めています。
 <Side宝良>では、車いすテニス界の絶対の女王であり、宝良の乗り越えなければいけない最大の壁である玲や、宝良に割って入られるまで、玲に次ぐ位置に君臨してきた最上涼子などライバルたちも登場、彼女たちの過去のエピソードや宝良との関係も印象に残ります。
 ふたりで一つの夢を追いかけるその絆と情熱に圧倒される熱いスポーツ小説です。
 
 
 
第8位 ツインスター・サイクロン・ランナウェイ/小川一水
 第一線で活躍し続け、国産SFの屋台骨を為している小川一水先生による、百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』収録の同題短編を長編化した作品。短編版で描かれたエピソードが違う形で盛り込まれていたり、詳細に社会背景が書き込まれています。
 人類が宇宙に進出してから遥か後代。辺境の巨大ガス惑星の近傍では、男女で行う宇宙漁が生活の基盤となっている社会が築かれていました。行き遅れているテラの前に現れた謎に満ちた家出少女・ダイオードは、誰にも理解されずにいたテラの類まれな資質を見抜いて、テラの相方に志願。掟破りの女性ペアが漁に乗り出します。見た目も気質も正反対な社会のはみ出し者であるふたりが、因習に満ちた世界で生きる道を切り開いていく爽快なストーリーです。
 長編化によって、意地っ張りで素直じゃないダイオードと、包容力のあるテラのラブコメ分も増量する一方、より男尊女卑社会の実態が顕わになり、ますますふたりを応援したくなります。さらに、新たな謎も加わり、続編が待ち遠しいです。
 
 
 
第7位 このぬくもりを君と呼ぶんだ/悠木りん
このぬくもりを君と呼ぶんだ (ガガガ文庫)

このぬくもりを君と呼ぶんだ (ガガガ文庫)

 

  第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞を受賞した悠木りん先生のデビュー作です。圧倒的な人気を誇る百合漫画『やがて君になる』の中谷鳰なかたににお先生のイラストも目を惹く本作は、地球環境の悪化により、人類が地下都市での生活を余儀なくされた時代を舞台にした二人の少女の物語です。

 人工的に映し出される空を、上辺だけの人間関係を、内心、フェイクと忌み嫌うレニーにとって、そんな自分をさらけだせる唯一の相手、サボり魔の不良少女・トーカと過ごす時間だけが、心の拠りどころとなっていました。しかし、出自を蔑まれるトーカと真面目な優等生で通してきたレニーの関係を周囲の空気は許さず、ふたりの間に距離が開きはじめます。快活な少女に見えたトーカの抱える葛藤、心の支えを失って思わぬ方向へ暴走し始めるレニーの想いは、痛ましく胸を抉られます。ふたりの間にできてしまった深い溝を乗り越えて、彼女たちの求めるリアルを手にすることができるのか。さまざまな感情が渦巻く少女たちの心を余すところなく描き出す作品です。
 
 
第6位 サクラの降る町/小川晴央

  2014年に、電撃小説大賞金賞を得た『僕が七不思議になったわけ』でデビューされて以降、メディアワークス文庫から作品を刊行されていた小川晴央おがわはるお先生の第10回京アニ大賞KAエスマ文庫特別賞受賞作品。

 季節に関係なく空から降ってくる桜の花びら。アマザクラと呼ばれる現象が起こる町に住む神屋敷かみやしきツバサだけが知る秘密。それは町に降るアマザクラの花びらが、幼馴染でかつては親友だった環木たまきヒヨリの感情と連動していること。ツバサはある出来事以来、ヒヨリとは疎遠になったまま孤独な高校生活を送っていましたが、そんなツバサの前に、転校生の紫々吹ししぶきルカが現れます。ルカからアマザクラに関する気になる情報を聞かされたツバサは、ヒヨリの身を案じ、事の真偽を確かめるため、ルカとともにヒヨリと接触を図ります。
 大の親友だったはずのツバサとヒヨリのぎこちないやりとりはほろ苦く、ある理由からアマザクラの秘密を知りたいルカと、ツバサのことを守りたいヒヨリ。打算で結びついたふたりの遠慮のないやりとりと関係の変化にも注目です。少女たちがそれぞれ抱える秘密と、降りそそぐ花弁が物語る想いを紐解いていく百合ミステリです。
 
 
 
第5位 声優ラジオのウラオモテ/二月公

  応募総数4607作のなかから第26回電撃小説大賞の大賞を獲得した、二月公にがつこう先生のデビュー作です。

 最初に当たり役を得たものの、その後泣かず飛ばすの声優・歌種うたたねやすみこと佐藤由美子。人気急上昇中の声優・夕暮夕陽ゆうぐれゆうひこと渡辺千佳。ふたりが同じ高校に通っていることに目を留めたプロデューサーの意向によって、コンビを組んでラジオ番組に出演することが決定。ところが、ふたりの相性は最悪。由美子は、アイドル的な活動にも積極的、学校では多くの友人に囲まれる明るい性格で、ひとり親の母を支え家事もこなすしっかり者。一方、千佳は、演技へのこだわりから、アイドル的な活動には乗り気でなく、対人関係を築くのも不得意で学校では独りで過ごし、演技に熱を入れるあまり、身の回りのことには無頓着。
 声優としての顔と素顔のギャップがあるという共通点はあるものの、声優としてのスタンスの違い、まるきり正反対の性格から、千佳は由美子につい突っかかり、そうなると由美子も張り合って、口を開けば喧嘩になってしまいます。しかし、内心では互いに実力を認め合っていて、本当は誰よりも頑張る姿を知っている。でも、素直には言いたくない。1巻では、そんなふたりが、千佳を襲う声優業の危機を前に、共闘していく流れが最高です。それぞれの個性がぶつかり合い、こいつには絶対に負けたくないという相手がいるからこそ輝ける――ライバル百合の魅力がたっぷり詰まった作品です。
 嬉しいことに、順調に巻を重ねているこのシリーズ。2巻では、ふたりの声優業存続をかけた正念場を迎え、3巻では仕事上の壁にぶち当たりあがく由美子の姿が描かれます。ふたりの熱い戦いはまだまだ続いていくようです。
 
 
 
第4位 ピエタとトランジ<完全版>/藤野可織
ピエタとトランジ <完全版>

ピエタとトランジ <完全版>

  • 作者:藤野 可織
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 単行本
 

  芥川賞作家でもある藤野可織先生の名探偵トランジと助手のピエタの冒険を描いた年代記。この長編の原点となったふたりの出会いを描いたエピソード「ピエタとトランジ」(『おはなしして子ちゃん』所載)も巻末に収録した<完全版>として刊行されました。

 トランジは天才的な頭脳を持ちどんな事件も解決してしまう名探偵ですが、同時に名探偵として致命的な体質を持っています。それは周囲に事件を誘発してしまうこと。トランジに日常的に接する人間は、たいてい事件を起こすか被害者になってしまいます。トランジの体質を知った者も皆、死ぬか、トランジに隠遁生活を強いて、影響から逃れようと離れていくかするわけですが、ピエタだけはなぜか死にもせず、元気にトランジの助手を務めています。
 トランジと共にする冒険をこよなく愛するピエタにとって、いわばトランジはいわゆる推しのようなもの。事件を解決していく瞬間こそがトランジの一番輝く時間、その推しの輝いている姿がみたい。もっと輝かせたい。そのためには、簡単には殺されないように武術を修めたり、猛勉強して医者になることも辞さない。やがて、トランジの体質が等比級数的に伝播していき、人類が滅びはじめても、ピエタはちっとも気に病んだりしません。
 トランジは自分の体質についてピエタほど割り切れていないようで、ピエタを巻き込むことにもあんまり歓迎していない様子をみせることもあります。ただ、トランジが、直接、思うところを口に出すことはないだけに、その窺い知れない複雑な心境を間接的に覗かせる描写がすごく印象的です。
 20代の終わりから、30代の中頃までは、ふたりにとっての暗黒時代が訪れますが、結局は、結婚、生殖のためのセックス、出産――絵に描いたような<女の幸せ>では、二人の冒険は止められず、人類が滅亡しようが、生きたいように生きていく。そんなふたりの姿が爽快無比なバディものです。
 余談ですが、人類滅亡を扱った作品は多いですが、しがらみを吹っ飛ばして自由に生きるふたりの姿を見せられると、滅亡に瀕した人類がシステマティックに男女を交配させて子孫を残すというような設定の小説や漫画なんかを見かけても、「そこまでして人類って残さなきゃいけないものかな?」なんて思っちゃいます。個人的には、森奈津子の「西城秀樹のおかげです」に並ぶ衝撃を受けた人類滅亡SFでした。
 
 
 
第3位 転生王女と天才令嬢の魔法革命/鴉ぴえろ
転生王女と天才令嬢の魔法革命 (ファンタジア文庫)
 
転生王女と天才令嬢の魔法革命2 (ファンタジア文庫)
 
転生王女と天才令嬢の魔法革命3 (ファンタジア文庫)
 

  コミカライズも始まっている、鴉ぴえろ先生の「小説家になろう」発のデビュー作。魔法がなかった世界にいた記憶を持つ転生王女アニスフィアと、才媛として名を馳せる貴族の令嬢ユフィリアの関係を軸にした作品です。

  アニスフィアは、魔法に対する憧れは人一倍強いものの自身は魔法が使えません。王族や貴族なら魔法を使えて当然という風潮のある王国で、白い目で見られながらも、魔法は人を笑顔にするものという信念に基づいて、魔法を研究する、“魔法科学”-略称“魔学”を提唱し、魔法を利用した道具の開発に取り組んでいます。その活動を通して、特権階級と深く結びついた魔法を力を広く開放して、人々の役に立てようしています。 
 一研究者であるアニスフィアにとって、王女という立場は恩恵もあるけれど、窮屈なもの。いざとなればその立場を活用する強かさも覗かせつつも、堅苦しいことは大嫌いで、奔放な楽天家です。一方、ユフィリアは、魔法の才能にも溢れていて、貴族として義務感から常に己を律し、王子との婚約も、王の側近の娘ならば当然のことと受け止め、将来の王妃として恥じることのない生き方をしようとしていました。
 対照的なふたりの物語は、ユフィリアが王子から婚約破棄を突き付けられたことから始まります。そのことで政治的に難しい立場に立たされてしまったユフィリアを保護するため、アニスフィアは自身の魔法研究の助手として迎え入れます。最初は突然与えられた自由に戸惑うばかりだったユフィリアが、異質で理解しがたい存在であったアニスと共に過ごすうちに、徐々に徐々に心を開いていき、アニスの在り方に惹かれていく過程をじっくりと繊細に描いています。高い能力を持ちながら、ただ求められる役割を果たすだけだったユフィリアが、心からの望みを得られるように、アニスフィアは、ユフィリアの意思に一切、干渉しようとせず、焦れることもなくじっと見守ります。また、アニスフィアと専属の侍女・イリアとの、長い付き合いならではの気の置けないやりとりも楽しいです。
 2巻では、アニスフィアとは相容れない信念を持ちながら、魔法研究に関しては互いに認め合い研究をともにするティルティが登場。その存在にも触発され、ユフィはアニスを支えるために自分に何ができるのか、どのようにすればいいのか自問していきます。魔学を快く思わない貴族たちによって窮地に立たされたアニスフィアのために、覚悟を決めたユフィリアが立ち上がる姿には快哉を叫ばずにはいられません。そして、アニスフィアが婚約破棄の原因となった少女レイニを保護したことを皮切りに、ふたりを取り巻く環境は風雲急を告げ、やがて、ユフィリアを苦境に追いやった王子アルガルドとアニスフィア姉弟の全面対決に発展していきますが、アルガルドのアニスフィアに対する複雑に入り組んだ想いと、アニスなりに幸せを願ってきた弟に対する想いがぶつかり合う対決シーンも読みごたえがあります。
 今年1月に発行された3巻を以って第一部完となった本シリーズ。王位継承者としての義務を果たさなければいけなくなったアニスフィアは、入れ込んでいた魔学の研究を諦めなければいけなくなります。気丈に振舞いユフィにさえ真意をみせてくれないアニスの姿を目の当たりにし、彼女の本当の幸せを願いながらどうすることもできずに苦悩を深めるユフィが辿り着いた結論は、アニスにとって受け入れ難いもので、譲れぬふたりは互いの思いの丈をすべて吐き出しながら、ぶつかり合っていきます。ひとり先を行く王女の、その背中を追いかけるところから始まったふたりの関係が辿り着いたひとつの着地点を、ぜひ目に焼きつけていただきたいと願います。
 こうして、転生王女と天才令嬢の物語は一区切りついた形ですが、まだふたりの魔法革命は始まったばかり。第二部以降の続刊を待ちたいと思います。
 
 
 
 
第2位 わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)
 2020年の百合シーンに於いて、ライトノベル・レーベルから、3つのシリーズを上梓、『電撃G’sマガジン』発の読者参加企画で、お嬢様学園を舞台にした『私のシスター・ラビリンス』の原案・執筆を務め、『電撃G’sマガジン』誌上とカクヨムで展開、さらに原作者を務める漫画『もし、恋が見えたなら』の連載開始、単行本化と八面六臂の活躍を見せてくれたみかみてれん先生。商業書下ろし作品としては2016年の『魔少女毒少女』以来となる完全新作シリーズが登場しました。
 
 中学時代、友だちができず、引きこもってゲームしてばかりだった甘織あまおりれな子は、高校進学を機に心機一転、友達に囲まれる楽しい学校生活を目指します。幸い、入学早々話題の的になっていた学園のスター王塚真唯おうづかまいを中心にした女子グループに属することができ、順風満帆と思いきや、周りのハイスペック女子たちに合わせるためにとにかく頑張った結果、元がネガティヴ思考なれな子に限界が訪れます。入学から2ヶ月経ったある日、我慢できずに教室を飛び出したれな子ですが、心配して後を追ってきた真唯に意外な悩みを聞かされ、れな子もひた隠しにしてきた高校デビューの道のりを真唯に打ち明けます。お互いの秘密を共有し、クラスメイトから、学生生活を支えてくれる親友へと、れな子が憧れた関係に一歩近づいたかと思えたその矢先「どうやら私は、君をひとりの女性として好きになってしまったようだ」と真唯に告白されてしまいます。いずれ別れるかもしれない恋人より、一生の親友が欲しいれな子と、恋人になりたい真唯。かくして、譲れないふたりはどちらの関係がより素晴らしいか実践でプレゼンしあうという勝負が幕を開けます。
 何をやっても様になる真唯に情熱的に愛を囁かれて、気持ちをぐらつかせながらも、真唯の想像を絶する上流階級の暮らしぶりに、根っから庶民なれな子がどん引きしたり、なんでも持ってて自己肯定力無限の真唯と、自己評価の低いれな子の噛み合わないやりとりが笑いを誘いますが、やがて、ふたりの勝負は思わぬ騒動を引き起こします。テンポのいい会話と練達の文章で気持ちよく読ませてくれるガールズコメディです。
 2巻は、グループのひとりで真唯とは幼馴染の琴紗月ことさつきを中心にしたストーリー。真唯とれな子との一件で被害を被った紗月が、真唯に一泡吹かせようと取った手段は、れな子に交際を申し込むこと。紗月の目論み通りの反応を示す真唯の動揺、紗月のせいでれな子がちょっとした修羅場に巻き込まれてしまうのがおかしいです。紗月とれな子の仲が、単に真唯をやりこめるためのパートナーから、ちょっとづつ深まっていくのですが、その過程で、紗月が覗かせる意外な素顔、破天荒な真唯との長い付き合いで拗らせてしまった複雑な心情を知れば知るほど、真唯に勝とうとする紗月を応援したくなります。
 真唯グループにはほかにも、全校生徒に可愛がられている学園の妹的存在で、真唯が推しの小柳香穂こやなぎかほ、優しく思いやりに溢れた瀬名紫陽花せなあじさいがいます。一癖あるメンバーの中にあってグループの良心ともいえる紫陽花は、真唯たちに振り回されるれな子にとって癒しの存在。あまりに良い子過ぎて、ときどき、感極まったれな子が紫陽花に対して無自覚にフラグを立てていくのがおかしいですが、それがグループ内の人間関係にさらなる波乱を呼ぶのかとっても気になります。
 女の子たちが魅力たっぷりに描かれていて、とにかくみんな幸せになってほしい、そう思わずにはいられないシリーズです。
 
 
 
 
第1位 女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話/みかみてれん

  2014年にデビューされて以来、ライトノベルの分野で活躍されていたみかみてれん先生。近年は、個人で「みかみてれん文庫」を立ち上げ精力的に百合小説を書かれていました。なかでも、個人出版作品としては破格のヒット作となった『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』が、満を持してGA文庫から商業作品として世に送り出されることになりました。

 「女同士なんてありえない」そう言い放った榊原鞠佳に、同級生の不破絢は、100万円を差し出し、一日1万円で買うと宣言。100日間で女同士がありえないかどうか――絢が鞠佳を落とすか、鞠佳が耐えきるのかという勝負を持ちかけます。物欲と対抗心からまんまと勝負に乗った鞠佳ですが、とても意地悪に攻め立てたかと思えば、お姫様のように甘やかしてくれる絢に、じきに身も心も蕩かされていく始末。それでも意地を張って負けを認めない鞠佳ですが、自分にとっての絢と、絢にとって自分がどんな存在なのか、ふたりの関係にもやもやを抱えるようになっていきます。
 鞠佳は、本来、空気を読むのが得意で、そういう器用さをみんなで楽しい時間を過ごすために発揮する優しい女の子ですが、絢にだけは激しく対抗心を燃やしてしまいます。一方、涼しい顔で鞠佳を翻弄する絢も、だんだんいつもの完璧超人ぶりとは違う顔を覗かせるようになっていって、ますますキャラクターを魅力的に見せると同時に、ふたりの関係が漂わせる甘さも倍増していきます。
 同人版は現在、4冊目まで発表済。おまけもプラスされたGA文庫版も年内には2冊刊行されましたが、巻を重ねるごとに「まだこれ以上があるの?」と思ってしまうくらい甘いラブストーリーです。